鬼刑事は、もう一つ、

ここ一年来捜査を続けている、「違法な堕胎事件」を抱えていた。ニューヨークの隣の州ニュージャージーの農場経営者が、獣医免許しかないのに、私生児を孕んだ女性への堕胎手術をし、女性を回復できない体にしてしまったという事件である。しかし事件の内容は、すべて闇に包まれ、農場経営者の犯行というのは、鬼刑事の単なる推察に過ぎず、証拠を求めて、あきらめない捜査を続けていたのだった。そんな中で、参考人聴取だといいながら、犯人扱いの、暴力も伴う、違法な取調べも繰り返していた。丁度現在の日本でも、自白強要の違法な取調べがあるとして、取調べ過程の録音の必要性が叫ばれ、既にかなりの取調べで実施されているが、同じような取調べを、鬼刑事は、正義の名の下に、強引に押し進めようとしていたのである。
そんなわけで、農場の顧問弁護士が、第21分署に、「署長に会わせろ」と訪ねてくる。「推測で農場経営者を引っ張り、おまけに違法な取り調べをしている。すぐやめさせよ」というのが、訪問の主旨で、署長も、「事実ならやめさせる。よく調べてみる。しかし刑事にもいろいろな性格の者がおり、彼は正義感の塊のようなやり手だ」と、部下を擁護する一面も見せた。弁護士が帰ったあと、署長は、鬼刑事を署長室に呼び、やり過ぎた取り調べや捜査がないようにと注意する。しかし「弁護士は、違法な取り調べへの抗議というより、ギャングのような不法な組織にも、ニューヨークの政財界にも顔が利く大物弁護士だから、捜査に圧力をかけてきたんだろう。いよいよ怪しい。さらに捜査を続けよ」と、逆に鬼刑事を激励するのだった。